矛盾した介護報酬体系と介護の質を評価したインセンティブの付与

こんにちは。大阪の介護専門税理士の松本昌晴です。

昨日のブログで岡山市の「デイサービス改善インセンティブ事業」を取り上げました。

この事業は試験的に行われており、要介護度の改善が検証されたら、厚生労働省は全国的に介護事業者にインセンティブを与える報酬体系や加算措置を行うと思われます。

矛盾した介護報酬体系

介護報酬は、10年の経験があるベテランの介護福祉士がサービスを提供しても、初任者研修を修了したばかりの新人がサービスを提供しても同じ金額です。

そればかりか、要介護が上がれば報酬が増える仕組みになっているため、重度化を防ぐとか自立を促す支援を積極的に行おうとしている事業所は少ないのが現状です。

すなわち、今の報酬体系は利用者を増やすインセンティブはありますが、重度化防止とか自立支援というインセンティブはありません。

デイサービスの加算には、個別機能訓練加算とか認知症加算、中重度者ケア体制加算はありますが、それらの加算は人員を配置することによって算定できるものであって、介護の質まで問われるものではありません。

例えば、ほとんど寝たきりだった高齢者の方が、ベットから起き上がりトイレに行けるようになったとか、新聞を取りに行けるようになった、あるいは今まで外に出られなかった方が、近くのスーパーに買い物に行けるようになった、などの改善がなされても、介護報酬では評価されないどころか、逆に要介護度が改善されて報酬が下がるという現象まで起きてしまっています。

このような状況でも、要介護度を積極的に引き下げ、自宅に戻っても自立できるような支援をしているデイサービスもありますが、ごく少数です。

介護の質を評価して介護事業者にインセンティブを

次の図は未来投資会議の資料ですが、介護の質を評価してそれを介護事業者へのインセンティブに結び付けようとするものです。

画像の説明
出典:第2回未来投資会議「医療・介護分野におけるICT活用」

課題

現在の介護保険総合データベースでは、サービス種別は分かっても、提供されたケアの内容までは記録されていません。

すなわち、現状は同じ通所介護でも

  1. 自立支援指向の介護(本人ができる部分はしてもらい、できない部分は介助しつつ訓練)と
  2. 自立支援を意識しない介護(本人ができる部分についても介助をしてしまう。)

上の2つは、国保連に送信されるデータベース上は、どちらも「通所介護」とされ、区別されていません。

そのため、データベースを分析しても、どのようなケアが自立につながるか分かりません。

今後の具体的な取組

提供されたケアの内容までデータベース化し、同じサービス種別であってもケアの内容で区別できるようにする。

例えば、

  1. 脱衣はできない部分のみ介助する「自立支援指向の介護」と、脱衣は介助者が全て介助する「自立支援を意識しない介護」とを、データベース上それぞれのケアの内容により区分する。
  2. 移動については浴槽をまたぐ訓練をする「自立支援指向の介護」、リフトを使用する「自立支援を意識しない介護」データベース上それぞれのケアの内容により区分する。

以上の様に「自立支援指向の介護」と「自立支援を意識しない介護」とが、データベース上それぞれのケアの内容により区分され、「自立支援指向の介護」が要介護度の改善になり、介護給付費の抑制につながるというデータベースの分析結果が出ると予想されます。

厚生労働省は、上の分析結果を経て「科学的に裏付けられた介護」である「自立支援指向の介護」を提供した介護事業所には、介護報酬等での評価によるインセンティブを付与することになります。

なお、「科学的に裏付けられた介護」を提供した介護事業所へのインセンティブの付与は、今回の介護報酬改定には間に合わず、2021年度以降になる予定です。




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