訪問介護の生活援助の人員基準及び報酬について、分科会の委員の意見

こんにちは。大阪の介護専門税理士の松本昌晴です。

訪問介護の報酬改定について、7月5日に開かれた介護給付費分科会において、論点の一つとして次が挙げられました。

生活援助を中心に訪問介護を行う場合の人員基準及び報酬について、要介護者に対する生活援助の意義を踏まえ、どう考えるか。

上記の論点に対して、主な委員の意見を発言順に、抜粋してご紹介します。

全文をご覧になりたい方は、第142回社会保障審議会介護給付費分科会資料の次のアドレスにアクセスしてください。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html?tid=126698

訪問介護の生活援助について、「人員基準を緩和して報酬を引き下げる」という意見を明確に出している委員は、

  1. 本多 伸行 委員(健康保険組合連合会理事)
  2. 井上 隆 委員(一般社団法人日本経済団体連合会常務理事)
    です。

それに対して、明確に反対意見を述べているのが、田部井 康夫 委員(公益社団法人認知症の人と家族の会理事)です。

他の委員は

  1. 鈴木 邦彦 委員(公益社団法人日本医師会常任理事)
    「自立支援を妨げないように生活援助の回数を減らす。軽度者の生活援助は総合事業に移行することも必要。」
  2. 稲葉 雅之 委員 (民間介護事業推進委員会代表委員)
    「身体介護と生活援助は一体的に提供するものであり、生活援助のみを切り離すことは慎重に。生活援助については、シニア層等に担い手になってもらう。」
  3. 武久 洋三 委員(一般社団法人日本慢性期医療協会会長)
    「生活援助は身体介護と一体的に提供し、少なうともADLの改善・維持が必要で、評価にメリハリを。」
  4. 及川 ゆりこ 委員(公益社団法人日本介護福祉士会副会長)
    「生活援助には専門家によるアセスメントやモニタリングが必要。」
  5. 大西 秀人 委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長(高松市長))
    「生活援助の総合事業への移行は、現状等を十分見極めて進めていくことが必要。」
    などです。

鈴木 邦彦 委員(公益社団法人日本医師会常任理事)の意見

介護保険制度の持続可能性を確保するためには生活援助の効率化は必要であると考えます。

通常北欧などを見ても、軽度者はサービスの回数が少ないです。軽度者に対してサービスを全くとめてしまうのではなくて、回数を減らすことが考えられると思うのですが、サービスが減ったために自立支援を妨げることがないようにする必要があると思います。

同時に、軽い人に関しては地域での受け皿づくりの取り組みも必要であると考えます。

稲葉 雅之 委員 (民間介護事業推進委員会代表委員)の意見

訪問介護サービスは、身体介護、生活援助が現場で一体的、総合的に提供されることで、合理的に利用者の生活を支えているものであります。

生活援助のみを切り出すような対応は慎重にしないと、利用者の生活基盤を揺るがし、サービスレベルの低下を招きかねないおそれがあります。

介護職員の確保は困難を極めており、介護職員のマンパワーと専門性を生かすために、一部代替可能なサービスを総合的に組み合わせるということの検討はあり得るのだと思います。

本多 伸行 委員(健康保険組合連合会理事)の意見

軽度者への生活援助については段階的に、地域全体で支えるような方向へ移行させていくことが必要ではないかと思います。

介護人材の不足や制度の持続可能性という課題に対応する観点からも、生活援助を中心に訪問介護を行う場合の人員基準を緩和し、介護専門職と生活援助を中心に実施する人材の役割分担を図ることが必要であると思いますが、サービスの質の低下にも留意しつつ、介護報酬についてもそれぞれの役割を踏まえた適正な設定をしていくべきだと思います。

武久 洋三 委員(一般社団法人日本慢性期医療協会会長)の意見

要支援、要介護者に対して、生活支援だけのサービスがあるということ自身がおかしいのではないかと思います。

訪問介護は、特に要介護度がよくなるための、日常生活が一人でもできるようになるための援助ですから、少なくともADLは改善するか、その状態を維持する状態でやってもらわないといけない。

ただ単に漫然と同じようなサービスをただただやっているということに対しての評価というのはもう少し厳しくすべきではないか。逆に、よくなったらもう少し評価を上げてあげる

井上 隆 委員(一般社団法人日本経済団体連合会常務理事)の意見

軽度者の生活援助は、人員基準を緩和して報酬を引き下げる。

人材の不足というのもありますし、制度の持続可能性という将来に向けての重要な課題がございますので、身体介護、生活援助につきましては、必要な専門性を勘案し人員基準や報酬を考えていくほうがいいのではないかと思います。

及川 ゆりこ 委員(公益社団法人日本介護福祉士会副会長)の意見

サービス事業者の職員に対する指導や個別援助計画作成の役割を持つサービス提供責任者の責任は大きく、介護福祉士の有資格者であることが最低要件と考えます。

生活援助を利用される方に対するアセスメントやモニタリングについては、専門性が必要であると考えます。人員基準等の緩和については、この点も留意して検討していただきたいと思います。

大西 秀人 委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長(高松市長))の意見

総合事業の実施を進めていく中で、特に本市におきましても、いわゆる人員基準を緩和して生活援助に特化しました訪問型サービスAにつきましては、事業者の参入が実際ほとんど進んでいない現状にございます。

ただ、方向性としては、生活援助サービスをより効率的、効果的に展開していくということは必要だと考えておりますので、その辺、現状等も十分見きわめながら進めていただきたいなと思っております。

田部井 康夫 委員(公益社団法人認知症の人と家族の会理事)の意見

家事援助がその人の在宅での生活を支え、家族の就労をも可能にしているという役割を十分果たしているというふうに調査結果(「認知症初期の暮らしと必要な支援」)でも出ています。

一人一人認知症の症状は違いますので、どの部分にどのようなサポートがあれば、自立した生活を維持できるのかという観点からその人に接してフォローしていかなければいけない。

今回提案されています人身基準の見直しでありますとか、報酬の引き下げというのにはどうしても納得がいかないと申し上げたいと思います。

瀬戸 雅嗣 委員(公益社団法人全国老人福祉施設協議会理事・統括幹事)の意見

訪問介護では生活援助も含めて一体的にサービス提供を行うことで、さまざまな生活課題を発見して、日々の生活に寄り添ったケアを提供しています。

こうしたかかわりは、まさに介護の専門性ですので、生活援助だけを切り離す、あるいは専門性は要らないということにならないと思います。

齊藤 秀樹 委員(公益財団法人全国老人クラブ連合会常務理事)の意見

生活援助は重度化予防に資すると評価できるものではないかと思います。そういう意味では、生活援助の評価が少し低過ぎるのではないか。

やはり人材の有効利用、役割と責任の分担というのは避けられない問題であろうと考えます。

小原 秀和  委員(一般社団法人日本介護支援専門員協会副会長)の意見

生活援助の意義、必要性については、実情としてとても適切とは言えない生活環境にある利用者さんを支援することは少なくないのですが、例えば清潔な生活環境が担保できなくて、不適切な食品の摂取とか、水分の不足とか、重要な薬の飲み忘れなどが頻回にあれば、容易に健康状態とか生活状況の悪化につながることは想像にやすいと思います。ここら辺は自立支援との兼ね合いとも絡めて考えていかなければいけないと私は強く思います。

小林 剛 委員(全国健康保険協会理事長)の意見

サービス水準に与える影響には配慮する必要がありますが、限られた介護人材を有効活用する意味でも、より多くの人材が生活援助を実施できるよう基準を見直し、それに伴う報酬水準の適正化を図っていくべきではないかと思います。

齋藤 訓子 委員(公益社団法人日本看護協会副会長)の意見

生活援助と身体介護をきれいに切り分けられるのかどうかは、少し疑問があります。

利用者が出来る範囲で参加すること自体が生活機能の維持・向上に資すると思いますので、利用者の状態に合わせた援助と家事代行とは区別していく必要があると思います。

13.6%の事業所が訪問介護以外の総合事業でも対応可能という回答もありますので、こうした事業者側の判断について、随時ケアマネジャーに情報提供して、ケアプランの中身を変えるといったようなサービス提供責任者からの意見、情報提供を促す仕組みがあると、総合事業に移行しやすくなるのではないかと考えています。

訪問介護計画の作成等の責任者は介護福祉士にお願いするような方向でよいのではないかと思います。



a:1379 t:1 y:0