介護事業所を退職して、ご利用者を引き抜くことに問題はあるか?
こんにちは。大阪の介護専門税理士の松本昌晴です。
介護事業の開業相談を受けていると、色々な質問があります。
その中からご利用者の引き抜きについて、私の意見を述べたいと思います。
次の様な質問がありました。
ご質問された人を仮にAさんとし、前職の会社を甲社とします。
甲社は介護大手の事業所で、誰もが知っている会社です。
Aさんが甲社を退職すると、Aさんはご利用者の信頼が厚く必ずついてきます。
そのことを分かっている甲社は、Aさんに圧力をかけ、ご利用者を引き抜いたら「弁護士が対応する」とか「開業したら潰す」などの脅しをかけています。
この様な状況で私に相談があり、「今でまで開業支援をされていて、ご利用者を引き抜いて問題になったことはありませんか?」という質問でした。
Aさんは、真面目な人で甲社で働いているときから、積極的にご利用者の勧誘をすることもなく、またその気持もないのですが、ご利用者に退職を告げると「引き続きお願いしたい。」と言われるそうです。
もし、介護事業を開業後に甲社のご利用者を引き継いだ場合、甲社から訴えられるでしょうか?と心配になって私に質問されたのです。
ここからは私見です。
ご利用者さんがAさんを選択するか甲社を選択するかは、ご利用者の自由であって、それを制約することは介護保険の理念に反することになります。
従って、ご利用者がAさんを自分の意思で選択したのなら、誰も止める権利はありません。
恐らく甲社も分かっているはずですが、
- 弁護士から内容証明書が届くと、ビビッてご利用者の引き抜きを止めるのではないか?あるいは、
- 今いる従業員に対して、ご利用者を引き抜くと大変なことになると見せしめのため
という目的で強行手段に出るかもしれません。
弁護士から内容証明書が届くと、普通の人は裁判で訴えられるのではないかとビビッてしまいますが、多くの場合は単なる脅しです。
それでも心配されるのであれば、弁護士に相談することをお勧めします。
Aさんの適切な対応方法
Aさんには黙っていても、ご利用者はついてくるので、あえて勧誘することなく、退職の意思表示程度にとどめておくのが無難です。
甲社のご利用者情報を持ち出したり、あからさまなご利用者の勧誘は絶対に避けるべきです。
退職の意思表示をご利用者に伝えたら、引き続きAさんにサービスを受けたい人は、連絡先を聞くはずです。
聞かれたら、伝えたらいいことです。
開業後数ヶ月してから、引き継ぐぐらいでいいのではないでしょうか?
甲社の適切な対応方法
甲社は大手の有名な会社なので、表沙汰になると世間の評判にも影響しますので、できるだけ穏便にしなければなりません。
いま過重労働や未払残業代が問題になっており、また介護事業所であれば虐待が問題になっています。
大手の介護事業所であれば、この様な問題は大なり小なり必ずあり、引き抜きする従業員と争うことにより、報道で問題がオープンにされることは一番避けたいところです。
そこで、引き抜きが少しでもなくなる様に、
- 常日頃、一人のヘルパーだけではなく複数で対応する。
- 引き継ぎ時に、今までと同じように十分な対応をするので、継続して利用する様にお願いする。人はお願いされると、断りづらいものです。
- 強引な勧誘があったかどうか、ご利用者に聞き取り調査をする。もしあれば、法的手段をとるか検討する。
- 就業規則で、ご利用者の情報を使用することを禁止する条文を規定する。
などの対策が考えられます。
道義上の問題はあるにせよ、ご利用者の選択であれば甲社としては法的手段をとって裁判するメリットはほとんどなく、法的に問題がないように脅しをかける程度しか方法はないでしょう。
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