役員に処遇改善加算を支給できるケース

介護専門税理士の松本昌晴です。

「役員に処遇改善加算を支給できますか?」という、ご質問を受けることがあります。

そこで今回は、このご質問にお答えしたいと思います。

「役員に処遇改善加算を支給できますか?」というご質問は、「処遇改善加算の配分対象に役員が含まれますか?」という質問に、言い換えることができます。

もくじ

処遇改善加算の支給対象の解釈

まず、厚生労働省は、役員に処遇改善加算を支給することについて、どのように考えているのでしょうか?

役員に処遇改善加算を支給
出典:宮城県「質問事項 回答 備考」

すなわち、「現状として役員報酬しか受け取っていないとしても、賃金改善分を労働基準法上の賃金で支給するのであれば対象としてよい。」とし、役員に処遇改善加算を支給することについて、一定の条件のもとで認めています。

しかし、「労働基準法上の賃金」とは、具体的にどういう内容なのか不明であり、運用を任されている自治体は混乱している状態です。

ローカルルールについては、下記のサイトをご覧ください。
http://kaigokeiei.net/index.php?%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A8%E3%81%AF

各自治体の運用例

大阪市の扱い

まず、大阪市のHPのトップ画面から、「処遇改善加算 役員」で検索すると下記の検索結果が表示されます。

処遇改善加算

次に「介護職員処遇改善加算に関する留意事項」をクリックすると、役員に処遇改善加算を支給するときの留意事項が記載されています。

なお「Ctrlキー+F」で、「役員」のキーワードを入力すると、「役員」と記載されているところが表示されます。

情報量が多い場合は、非常に助かりますので試してみてください。

役員の処遇改善加算

長野県

〇 法人の理事長等の役員であっても、職員としての勤務実績のある者は特定加算の対象職員とすることができます。(ただし、役員報酬の支給を受けている者は対象外)
https://www.pref.nagano.lg.jp/kaigo-shien/kaigo-service-kyouka/documents/09_syoguukaizennkasannnituite71-90.pdf

福岡県介護保険広域連合

「処遇改善加算については従業員に対する給与支給による処遇改善目的に用途が限定されるため事業主である法人代表へはいかなる場合でも支給対象外です。」
https://www.fukuoka-kaigo.jp/files/NewsDetail/7/NewsDetail_7125_file_62fdc865d49f4.pdf

島根県

「法人代表者(代表取締役、代表社員、代表理事 等)は非対象」
https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/jigyousya/syougai_service/03syuudannsidou.data/03shuudannshidou.pdf?site=sp

宮城県

「法人代表者 (代表取締役,代表社員,代表理事等)は対象となりません。」
https://www.pref.miyagi.jp/documents/7258/0400ver2.pdf

和歌山県

労働も行う役員については、使用人兼務役員に該当するか否かで判断し、判断のポイントは雇用保険に加入しているか(ハローワークに兼務役員雇用実態証明書を提出しているか)であるとしています。
https://wave.pref.wakayama.lg.jp/kaigodenet/careprov/syuudansidou/R3/kyoutsuu/04%20syoguukaizen.pdf

愛媛県

法人役員を兼務している職員については、経営に参画しており相応の役員報酬を受けていることが想定されることから、基本的に処遇改善の対象とすることは想定していません。ただし、当該職員について、教育又は保育現場で必要な専門性を有し、中核的な役割を担っていると認められる場合には、技能・経験を有する職員として本加算の対象とすることを妨げるものではありません。当該職員の業務の実態等を踏まえ、事業者において適切に判断して下さい。
https://www.pref.ehime.jp/h20300/hoiku/documents/kasann2faq.pdf

横浜市

給与ではなく役員報酬のみを支給されている場合は加算対象となりませんが、当該役員が介護職員としての勤務実態があり、その労働の対価として支給されている金銭が給与の性質を有している場合は、加算対象となります。
ただし、勤務表、雇用契約書等において上記要件を満たしている(労働者性を有している)ことが客観的に判断できるよう関係書類を整備してください。
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/fukushi-kaigo/kaigo/shinsei/kyotaku/3kasan/shogu/00.files/0010_20210322.pdf

など。
この様に、自治体によって様々な扱いをしていますので、皆さんの事業所を管轄している自治体が、どの様な扱いをしているかをネットで検索して調べてください。

または、ネットで確認できないときは、直接自治体に確認して下さい。そのとき、確認した内容をメモするとともに、確認した日時、回答した担当者の氏名などもメモに残してください。

大阪市の場合について、私の個人的な解釈

もう一度、大阪市の「介護職員処遇改善加算に関する留意事項」から、役員の処遇改善加算について記載された箇所をご覧ください。

処遇改善加算

ここで気になるところは、上記赤線部分「・・・・・その対価として支給されている金銭が役員報酬ではなく「給与」として支払われている場合は、・・・・・」の箇所です。

たとえば、次のように役員の定期同額給与を定時株主総会等で30万円と決めて支給していた場合は、「給与」として支払われている場合には該当せず、処遇改善加算を支給することはできないと解釈できるのではないでしょうか?
定期同額給与

そこで、私は次の厚生労働省の「取締役、監査役等、法人役員の雇用保険の適用について」に記載されている①~④の条件を満たし、雇用保険に加入している場合は、役員は処遇改善加算の配分対象になると考えます。
役員の雇用保険適用
出典:厚生労働省「取締役、監査役等、法人役員の雇用保険の適用について」

具体的に、ご説明をすると

  1. 役員報酬部分については、例えば月額10万円として株主総会等で決定して支給し、
  2. 介護職員の業務に従事している実績部分については、雇用契約書に基本給として例えば月額20万円と記載され、雇用保険に加入している場合は、

処遇改善加算として、例えば7月と12月に、それぞれ12万円を支給することができます。
役員の報酬・給与

以上、大阪市の場合について私見を述べましたが、皆さんは自己責任でご判断ください。また、新たな情報が出てきて、時が経過するとともに古い情報になってしまうことがありますので、ご注意ください。

役員に支給する給与を損金にするためには(法人税)

役員に処遇改善加算を支給できるとしても、会社の損金に算入できなければ、法人税等の税金は安くなりません。

役員に対して支給する給与が、損金に算入される場合

会社が役員に対して支給する給与が、損金に算入される場合は次の3つです。(他にもありますが、ほとんどの介護事業者に関係ないので省略。)

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの

定期同額給与

定期同額給与とは、原則として事業年度(例えば、3月決算であれば4/1~3/31)を通じて、毎月の支給額が同額であることを言います。

たとえば、下図の通り、役員の報酬は毎月同じ金額を1年間を通して支給したときに、損金に算入できます。

定期同額給与

事前確定届出給与

役員に賞与を支給した場合、損金に算入できませんが、「事前確定届出給与に関する届出」を提出しておれば、損金に算入することができます。

使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの

使用人兼務役員1
使用人兼務役員2
出典:国税庁「役員のうち使用人兼務役員になれない人」より

使用人兼務役員の判定は、難しいので税理士にご相談ください。

定期同額給与と事前確定届出給与は、法人税法上損金に算入できますが、処遇改善加算は支給できません。

使用人兼務役員であれば、法人税法上損金に算入でき、かつ、処遇改善加算を支給することができる可能性があります。



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